2009年1月17日

邂逅

新幹線では富士山が見えたのに、試合はフルセット負け。雲がかかってたのがダメだったんですかねえ。しかし幸か不幸か負け試合の悔しさを味わう余裕はなく、試合終了後は大急ぎの移動を余儀なくされることとなりました。バスを降りてからは猛然とダッシュ、渋谷の雑踏を走り抜けてBunkamuraシアターコクーンに到着したのは19時ギリギリのことでした。

野田地図 第14回公演「パイパー」(シアターコクーン)
作・演出・出演:野田秀樹
出演:松たか子、宮沢りえ、大倉考二、佐藤江梨子、北村有起哉、田中哲司、コンドルズ、橋爪功ほか

ものすごく食指が動いていた芝居ではなかったのですが、チケットを取ってもらえるとの事で、ならばとホイホイお願いさせていただきました。着席してみればさすがの良席、ありがとうございます。ああなんとか間に合ってよかった・・・。

芝居にハマったキッカケが野田さんだったわりに、様々な理由でここしばらく野田地図観劇からは遠ざかっていましたが、ひさびさの野田脚本はやっぱり凄かったの一言です。絶望に限りなく近いメッセージのなかに漂う一片の希望。生きているふりだなんていう言葉は野田さん流の修辞に過ぎず、これだけ全力で生きてる人の言葉だから、やっぱり響くんだろうなあと痛感しました。

役者も良かったですね。とくに宮沢りえさん、以前見た「透明人間の蒸気」では体の細さ以外はあまり印象に残らなかったのですが、今回は存在感がありました。予想よりも早く声が潰れていたにもかかわらず、それがまた役どころに合った魅力になっていて、ファンになりそうなほどでしたもの。すべてにおいて器用な松さんとのコンビも案外バランスが取れててよかったですね。

男優陣で出番が多かったのは大倉孝二さんと橋爪功さんのコンビ。大倉さんはあの喋り方でなぜあれだけ表現できるのかが未だに不思議なんですが、動きも含めてどんどん上手くなっておられますよね。テレビよりも舞台で見たい役者さんです。
橋爪さんの起用意図は終盤になって「おおそうか!」と納得。ものすごい役でしたが、演じることが楽しくてたまらないといった感じでしたね。こういう姿というのは観る側にとっても嬉しいものです。

あとはいつものごとく作者特権でキーパーソンを演じた野田さん。あの高声はときどき聞き取れないんですが、ラスト滅びゆく国への演説シーンはやはり迫力がありました。あれを言いたくて書いてるんだから当然のことだとはいえ、まだ頭の中でその言葉を噛み砕けてない自分がすごく悔しいです。ま、観劇後もあれやこれやと推論を巡らして楽しむのが野田地図の醍醐味なんですけども。

なのであえて難点を挙げるとするならば、ちょっと飽きがきた感じがある衣裳と選曲でしょうか。とくに高都さんの選曲はここのところ安易すぎると感じるんですよね。逃げ惑うシーンでラフマニノフってのは百歩譲るとしても(「走れメルス」もそうでした)ラストにあの音楽ってのはどうなのか。夏の歌舞伎でもそうでしたが、あれほど強い言葉にBGMが要るのでしょうか。曲名が気になって集中できなかったので、ちょっと八つ当たり気味です。
(ちなみにラストの曲名はグリーグの「Last spring」。知ってる人が聴けば「ああ、あのシーンね」って分かる曲です)

さ、脚本を読んで、キャラメルのように二度三度と楽しみましょう。
たまには考えるふりもしないと。

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